質問者:株式会社コスモスインターナショナル 岡田泰吉 回答者:財団法人東洋文庫
質問:100年保存計画の全体像 計画に準拠した実際の作品、美術品、資料で実行しておられる事例 計画の実行による保存上の効果
回答:「浮世絵保存・展示100年計画」についてお答えいたします。 @全体像 浮世絵は油絵とは異なり、光・空気との接触で容易に劣化します。 東洋文庫の浮世絵は大変、保存状態が良い事で国際的に知られていますが、それは従来公開していなかったからなのです。いかにして公開をしながら、劣化を防いで保存するか。これは矛盾を含んだ、しかし重要な課題です。 東洋文庫では、この難題に次の原則で取り組むことにいたしました。 「今後の100年間は、経過時間中の展示時間の割合を1%にする」というもので、具体的には以下のとおりです。 ・原則として一点の浮世絵は、3年間(26,280時間)に28時間(280時間) 展示します。 ・連作物については、必要に応じ実物と精密複製を併用して展示させて頂きます。(複製はコロタイプという複写方で制作しており、シワやシミの痕までそのまま写した大変精密なものです) *展示期間を短期にするだけではなく、作品への負担を抑えるための照度調節、温湿度管理も厳密に行っています(当館の場合、照度は40lux程度、室温24℃・湿度55%程度)
A計画に準拠し、実際の作品、美術品、資料で実行している事例 東洋文庫ではミュージアムが開館してから約1年間で下記の4作品で複製を併用して展示いたしました。 *各作品のオリジナル(複製ではない浮世絵)は毎月第1週目に展示替えをいたしました。 事例1、葛飾北斎『諸国瀧廻り』 =>8枚からなる本作は、毎月オリジナルを2図ずつ展示し、残りの6枚は複製を用いるという方法で公開いたしました。4ヶ月間かけて、8枚のオリジナルをそれぞれ約1ヵ月ずつ展示いたしました。 事例2、喜多川歌麿『御殿山の花見駕籠』 事例3、鳥文斎栄之『小舟町天王祭礼図』 事例4、鳥文斎栄之『夏宵遊興図』 =>これらの浮世絵は3枚で一つの作品となる続き物の浮世絵です。3枚の内、1枚はオリジナル、他2枚は複製を展示する方法で、3ヶ月間にわたり 公開をいたしました。
B計画の実行による保存上の効果 長期にわたって積み重ねていく試みなので、劣化の防止など明らかな効果の明言は、約1年経過した現在ではまだ出来ません。
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