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《研修部会便り》キッコーマン株式会社国際食文化研究センターの舩田一恵さんから、写真が水に浸かり変色してしまった場合の処置についてご質問を頂き、紙本・写真修復家の白岩洋子さんにお聞きしてご回答を頂きました。有難うございました。 
質問者:キッコーマン株式会社国際食文化研究センター 舩田一恵
回答者:紙本・写真修復家 白岩洋子

質問:
 写真が水に浸かり変色してしまった場合の処置について。
工場の設備写真がポケットアルバムに収納されていますが、アルバムの半分くらいが水に浸かり、乾いて黒黴が生えてしまいました。カラー写真の色が変わってしまったものを修復することは出来るでしょうか?とりあえず、刷毛で黴と塵を払い、アルバムの未使用のポケットに入れております。

回答:
 水損写真の原因としては、洪水、津波、消化の際の水濡れなどがあげられますが、特に写真において致命的なダメージのひとつは水損後のカビの繁殖による被害です。写真に使用されているゼラチンは親水性があるため、水分を吸収した状態が続くと膨潤、溶解します。また、そこにカビや菌類が発生しやすくなり、そのまま放置すると画像の破壊やインクや染料にじみが起き、元に戻すことが出来なくなります。

 ご質問にある写真の修復可能な処置に関しては、
1)カビが進行、再発生する可能性もあるため、まず、全ての写真を複写します。
2)カラー写真の色が変わってしまっていたり、色が溶けてしまっている部分はゼラチン色素層が溶解してしまったため、残念ながら修復できません。
3)まだ汚れが残っている部分に関しては、色が溶解してしまっている部分を避け、水と綿棒で部分的に拭き取って下さい。
4)ポケットアルバムは未使用のポケットに入れるのではなく、新しいものを使用して下さい。

 今回のようにアルバムが水に濡れてしまった場合は、ポケットの中に水分が溜まってしまい、そのままではすぐには乾きません。出来るだけ早くアルバムから写真を取り出し、乾燥させることが重要です。もし浸かっていた水が汚水であれば、一度きれいな水で写真を洗ってから乾かします。なお、一般的によく見られるプリントの印画紙は主に二種類あります。1970年代より前のカラー写真、白黒写真はバライタ紙という印画紙が使用されており、一度水につけてから乾かすと、カーリングしてしまいます。その場合は少し表面を乾燥させた後、シリコンシートや不織布を写真の表面にのせ、吸取紙やフェルトのような水分を吸収するものに挟んで乾かします。画面がデリケートなので注意が必要です。現在も使用されている1970年代以降のカラープリントはRC紙というポリエチレン層があるもので、そのまま乾燥させてもカーリングが起こりません。

 以上の処置は被害が比較的小さく、作業が出来る時間とマンパワーがある場合ですが、そうでない場合はまずそのまま乾燥させるか、余裕があれば水で洗浄してからとりあえず乾燥させます。カビを防ぐために相対湿度65%を超えない場所で保管します。また設備があれば専門家の立会いのもと、濡れたまま写真を冷凍し、後から作業を行うという方法もあります。

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